高級部位、牛タンのブロックを味わう
焼肉屋さんに行くと必ず一皿はオーダーするのが、この牛タン。言わずと知れた牛の舌のことです。
今回は安堂畜産直営・肉のこーべや玖珂店で購入した「国産牛肉タンブロック」を使って料理します。
このブロックは既に表皮と下の部分のスジが切り落とされた状態。それをタテに半分に切った半身です。だから、包丁持って皮と格闘することも要らず、下処理はほとんどなしでした。
ただし、焼肉屋さんでも価格高めの貴重部位。半身ブロックでも100g当たり約850円(記者購入時)という高価なお肉です。「失敗はできないな」という緊張感がありました。ちなみに、牛一頭からとれるタンは1kgくらい。今回の半身は590gほどとやや大きめでした。
タンにも色々あるのです
安堂光明会長(安堂グループ)によると、牛タンには黒タンと白タンがあるとのことです。
取材で牛を見ることは多い記者ですが、舌の色までは意識して見たことはありません。
「黒いのは黒毛和牛のタンでね。料理屋に収めることが多くて店頭にはなかなか…」。
黒タンの方が、味が良くて、その分お値段も高そうです。
もう一つ、安堂会長から授かった豆知識を披露します。
タンは根本の方からタン元、タン中、タン先と呼び名が分かれるそうです。なかでもタン元は下の付け根のところだから、肉厚で脂がのるところです。舌の先とは違ってあまり動かないからだそうです。
牛タンにちなんで、安堂会長はこんな話を聞かせてくれました。
会長が若かりし頃のこと、宮崎の市場に肉牛を仕入れに出掛けて、ある焼肉店に入りました。
食事をしていると、近くの席に見たことのあるオヤジさんが腰かけました。市場で顔見知りの卸業者(兵庫県)です。
オヤジさんは店員を呼び寄せると、こう切り出しました。
「タンの根本ばっかりを出してくれ」。
途端に店員さんは困った顔になりました。
「根本だけというのは、たくさんはありませんからね。…難しいです」。
すると、オヤジさんは大きな声になって
「わしは根本しか食べん。他のは硬いからな。とにかく、根本ばっかりを持ってきてくれ」。
渋々引き下がった店員は、タン元ばかりを持ってきて、オヤジさんはご満悦だったそうです。
定番、焼肉でいただきます。
まずはタン中を焼肉にすることにしました。焼肉屋で出て来るように、3mmくらいの薄めに切りました。さらには、高級な焼肉屋で出て来る6mmくらいの厚めに切ったもの。こちらには、隠し包丁を入れました。
さらに、塩レモンだれ(白ネギ、にんにく、レモン汁、ごま油、塩、黒コショウ)を作って焼肉に載せて食べるようにしました。
薄切りはさっと焼いて、厚切りは少し時間をかけて…。
厚切りの隠し包丁の切り口が開き、肉汁がじわっと染み出て、思わず唾を飲みこみました。
さすがタン中です。少し硬さが残るのかとおもいきや、厚切りでもとても柔らかくてジューシーな仕上がりでした。
塩だれに付けて食せば、一層美味しさが増したのでした。
後でタン先も焼肉にして比べてみたところ、こちらはやはり硬い。同じ一本の舌でも場所によってこんなにも違うのかと驚きました。
タン元もステーキでいただく
タン中でこれだけ柔らかいのなら、タン元はいったいどうなるのか。兵庫のオヤジさんがこだわったタン元を今度はステーキでいただくことにしました。
1cm以上の厚みに切り、柔らかい食感と熱が通りやすいように隠し包丁を入れました。グラム単価を考えると、1枚原価1,500円は下らない高級ステーキです。
フライパンに少しお酒を入れてフタをして蒸し焼きにすることで、焦がすことなく熱を通すことにしました。
中火でだいたい1分半くらい。さらに裏返して1分半。最後にフタをとって強火で焼き目を付けたら完成。少し冷ました方が柔らかいようです。
よく切れる包丁を使ったせいで隠し包丁が入り過ぎた感じはありますが、我ながらとっても美味しそうにできました。
満を持して実食すると、口のなかで溶けるような柔らかい食感。脂がしつこいかと思いきや、割とあっさりしていて、うま味が口いっぱいに広がりました。
塩とコショウだけでいただくのをお薦めします。そのものの美味しさがよくわかります。
硬い肉質のタン先はタンシチューで!
余ったタン先をグツグツ煮込んでタンシチューにしてみました。味の決め手はお手軽デミグラスソース缶なので、味付けの失敗はないはずです。しかし、肉質を柔らかくするために1時間半~2時間煮込みます。その時に焦がさないように、たまにお湯を足す必要がありました。もし、圧力鍋を使えば随分と時短になるはずです。
焼肉ではとても硬かったタン先ですが、煮込んだシチューならスプーンで切れるほど柔らかくなりました。お味も濃厚で、ご飯やパンが進む絶品シチューになりました。
特別な日にぜひ牛タン・ブロックを!
ちょっと財布に余裕があるとか、今日は大切なお客様がいらっしゃるとか、そんなときには、ぜひ牛タンのブロックをお求めください。
タン元は自分好みの厚さに切ってステーキや焼き肉で至福の時間を過ごせます。残ったお肉は時間をかけてタンシチューにしましょう。
不思議なものでブロックのときには、あの牛の大きな舌をちょっと思い出していた記者でしたが、食べるときにはそんな画はまったく浮かんできません。ただひたすらに、「タンって美味しいよね」と言いながら胃袋を満たしたのでした。
なお、普段から色々な部位が店頭にある安堂畜産直営・肉のこーべや玖珂店でも、牛タン・ブロックはある時とない時があります。事前に店頭で頼んでおくと、取り置いてくれるので便利です。
では、未知なる部位と料理を求めて、牛肉珍味の旅は続きます。