コリコリ、ガリガリを楽しむ牛の気管(ガリ、ウルテ)
これは牛の気管です。ご覧ください、まるでエアコンの排気パイプのよう。容易に曲がるけど、リング状の軟骨がしっかりしていて決して潰れない。もしかしたら、排気パイプはこれを見本に開発されたのかなと思うほど。生き物の体というものは、良くできているものだと感心しました。
高森地区ではこれを「ガリ」と呼びます。他の呼び名に「ウルテ」があります。これは韓国語で丸くて長いものという意味。まさしくこの形状そのままです。ちなみに、なぜ「ガリ」と呼ぶのかについては、調べてみましたがわかりませんでした。
あぶり焼き
さて、このガリをどのように料理したら良いものか…。いつもなら、「ああ、これなら、こうしたらいいよ」と、安堂会長や朱美夫人が教えてくれるところですが、朱美夫人も「作ったことがない」とのこと。
少ない情報を基に行き当たった料理は焼肉でした。
筋切り包丁を用いても、リング状の軟骨を切るのにけっこうな力が要りました。だから、少しでも食べやすくするために、隠し包丁を入念に入れました。肉の卸売業者によっては、機械で叩いて柔らかくするそうです。
さっそく焼いてみます。表面の脂が焼けて、香ばしい煙が立ち込めました。どんな味がするのか、はやる気持ちを押さえて入念に表と裏を焼きます。
よく焼いたほうが軟骨に火が入って食べやすいそうです。
焼きたてを塩・胡椒だけの味付けで口に入れてみたら、これがなかなかの歯ごたえです。良く焼けて少し焦げている方が確かに食べやすいし、面白い食感です。お味はというと、臭みが全くなくて淡泊な味わい。塩・胡椒では物足りず、タレを付けて食べました。これはもう完全にお酒のアテですね。
ただ、もっと隠し包丁を入念に入れるべきだったと後悔しました。歯があまり丈夫ではない記者にはやはり、硬すぎます。
ちょっとボイルしたら少しは食べやすくなるのではと、10分程度、茹でてみましたが、結果は変わりませんでした。
「こうなったら圧力鍋を使うしかないな」と考えながら、冷めてしまったガリを一かけら口に入れました。するとどうでしょう。あの独特な食感はそのままですが、焼きたてより食べやすいのです。口のなかでガリガリという音と共に、噛み砕くことができます。時間を置いて冷めた方が食べやすいとは、ちょっとした発見でした。たぶん、乾燥が進んで、骨がさらにもろくなったからでしょうか。
そして、口の中のガリガリという音を聞きながら、閃きました。「ガリ」という呼び名はこの噛み砕くときの音に由来しているのでは? 本当にそうなのかは不明ですが…。
ポン酢和え
さて、軟骨を柔らかくする方法に、酢をつかうやり方があります。酢はカルシュウムを溶かしてくれるようです。
10分程度茹でたガリを軟骨を断つように薄く切って、ポン酢と生姜に漬けること30分。どれどれと口に入れて、驚きました。コリコリした食感はそのままですが、簡単に噛み砕くことができます。ポン酢と青じそでさっぱりしながら、ガリから出た脂がほどよい旨味を与えてくれます。もっと酢が染みたらどうなるのだろう? 半分残して、翌日まで冷蔵庫で寝かすことにしました。
圧力鍋で煮こみ料理
最後に圧力鍋を使った煮込みを作ることにしました。軟骨を切断するように薄く切って、生姜とニンニク、水とお酒、それを醤油と砂糖で甘辛に味付けします。圧力鍋は15分間ほど加圧しました。あまり柔らかくなって独特な食感が損なわれるのも嫌なので、抑え気味にしてみましたが、結果そんな心配は要りませんでした。それくらいこの軟骨は硬いのです。
圧力鍋を開けてみると、いい匂いが立ち込めました。香りも見た目もとても美味しそうです。さっそく食べてみると、まだ軟骨の硬さは残っていますが、随分と食べやすくなりました。軟骨のコリコリした食感とともに、その周りの脂身がいい味を出してくれています。酒のアテにも、おかずにも適したメニューになりました。
もっと加圧時間をかけても良かったなと、少し反省です。
料理をした翌日の昼、寝かしておいたポン酢和えを食べてみると、ポン酢がよく染みてさらに美味しさがアップしていました。軟骨もさらに食べやすくなっています。コリコリした食感を味わっていると、「ああ、この食感こそがガリを食べる楽しみなのだ」と実感。ご飯がすすむ逸品になりました。
では、牛肉珍味の旅はまだまだ続きます。