寄せ集めと言うなかれ、アバは牛スジの宝箱

「冬だと、なかなか渡せない肉だが…今なら」と安堂光明会長が冷凍庫から出してくれたのがこのお肉です。

▲アバ…高森地区だけの呼び名のようです。

その名を「アバ」といいます。早速、インターネットで調べてみますが、牛肉にそんな名前の部位はありません。どうやら、肉の産地・高森地区独自の呼び名のようです。名前の由来については、不明です。

アバは、と畜後の枝肉をさばく時に出るスジ肉のこと。だから、どの部位ということではなく、色々な部位の切れ端の集まりです。アバをよく見ると確かに、色々な形や色をしています。なかには赤身肉も混じっていて、見るからに美味しそうです。
アバはスジ肉なので、冬場は煮込み料理に引っ張り凧。取材班には回ってこないというわけです。

スジ肉の下処理

スジ肉を柔らかくして美味しくいただくには、下処理が不可欠。ということで、時間の余裕があったので、圧力鍋は使わずに処理することにしました。
まずはお肉を水から茹でて、沸騰したら、湯を捨てて水で洗います。そして、食べやすい大きさに切ってから再び鍋に投入。臭み消しに青ネギと生姜をいれて2時間ほど煮込みました。ちょっとかじってみると、スジが噛み切れるほどに柔らかくなっていました。
ここで重要なのは、煮込んだ汁を捨てないこと。うま味がたっぷり染み出ているスープなのです。

▲下処理で2時間煮込みました。

スジ肉の定番、煮込み料理

最初に作ったのは、煮込み料理の定番「牛すじコン」。スジ肉と煮汁、これにコンニャクを投入して、甘辛の味付けで30分煮たら完成です。


色んな部位の寄せ集めだから、ゼラチン質のものもあれば、コリコリするスジもある。そして赤身肉がたっぷり付いたものも…。
これらを選びながら食べるのが、楽しいのです。下処理の煮汁で煮ているから、うま味もたっぷりでした。
ただ、初夏に食べるにはやはり違和感があります。

名付けて「アバカレー」

今度は、牛すじカレーを作ることにしました。名付けてアバカレー。なんだか、某有名ホテルが出しているカレーみたいですね。

少し飴色になるくらいまで炒めた玉ねぎを入れて、下処理の煮汁もたっぷり使ったアバカレーの出来上がり。

▲アバカレーの出来上がり。

スジ肉を贅沢に載せたカレーは、これまた濃厚な味わいに仕上がりました。汗をかきながら、平らげたのでした。
ただ、カレーにしてしまうとやはり、カレーの味に押し切られて、アバの特徴は消えてしまいます。

「すじポン」にしてみた

初夏に相応しくて、アバをしっかり堪能できる料理はないものか?
そこで閃いたのは、「すじポン」です。下処理したアバを、ポン酢に馴染やすいようにさらに小さく切って、ポン酢に漬け込むだけ。食べる直前に七味と細ネギを混ぜ込んで、いざ実食。

▲すじポン

ビール片手に、色々な部位のスジを選びながら一つひとつを口にいれて噛み締めます。ポン酢の爽やかさのなか、色々と違った食感と味わいが広がりました。そして確信したのです。
「ああこれこそ、切れ端を集めたアバを最も堪能できる料理だ」。

アバの「すじポン」を食べていて、思い出した料理があります。それは魚料理。
色々な刺身の切れ端を集めて、ポン酢と一緒に売っていたりします。ポン酢で和えると立派な酒の肴。しかも、副産物だから安い。
アバの魅力は、その寄せ集め加減にあるのだと気づきました。所々に美味しい赤身肉が混ざっているのも、おまけ感覚で嬉しい。アバはスジ肉の宝箱なのです。

では、牛肉珍味の旅はまだまだ続きます。