ローストビーフやタタキに最適!「トウガラシ」
「トウガラシ」は、あの野菜の唐辛子に形が似ていることからその名が付いたと言われています。
関西では「トンビ」と呼ばれているそうで、鳥のトンビに似ているからという説もあります。
そういわれてみれば、トンビがとまっている姿に似ているかもしれませんね。
牛のウデの上部、肩甲骨当たりにあるお肉です。1頭から左右に2本、それぞれ大きくても2kg程度という、希少部位。しかし意外にもお値段はそんなに高くなく、100gが300円以内です。ただし、スーパーで探してもほとんど見つけることはできません。
そこで今回は特別に、業者へ卸すものを分けていただきました。卸の基本は1頭分、つまり2本を入手してさっそく調理に挑戦!
トウガラシをさばく
まず表面を覆っている脂と薄いスジ皮を削ぐように取り除きます。お肉の形状が細長いからでしょうか。素人の記者でも鼻歌まじりに作業は進みました。
次に、細長いほうから1/3くらいのところを大胆に切断します。安堂会長によれば、「細長い方にはほとんど筋がないから、先に切ってしまえば仕事が早い」とのこと。確かに中を走る太筋も、このあたりからほとんど見えないくらい細くなっています。
さて、難関はこの後でした。残り2/3の方の中には平べったくて太い筋が貫いています。これを綺麗に取らなければなりません。
まるで魚を三枚におろすかのように、スジを背骨に見立て、慎重に包丁を入れますが、これがなかなか難しい。結局、スジに肉がたくさんこびりついた状態で分割することになりました。
最後に太スジだけを削ぐように切ると、3つのきれいな肉の塊が作れました。写真では綺麗に見えますが、削いだスジにはお肉がたくさん付いていて、ため息が出ました。が、最後にスジ煮込みにして活かすことにします。
焼肉で味わってみる
さて、気を取り直して、まずは焼肉用にカットして、いざ実食です。
きれいな赤身に細やかなスジが入るお肉です。塩と胡椒で味付けして、まだ少しピンクがかった状態のものを口に入れました。すると、細かなスジがあるわりには柔らかくて、噛み締めたところから肉汁がじゅわっと出てきました。濃厚な赤身肉の旨味です。
一方、よく焼いたお肉はというと、ちょっと硬めで、パサパサした食感でした。「トウガラシ」は焼き過ぎない方が美味しい。というのが、試食した全員の感想です。味わいが濃厚な分、少量でも食べ応えを感じたのでした。
記者の必殺技、牛のタタキ!
牛のタタキは近年、規制が厳しくなったため、飲食店では味わうことのできない幻の味になってしまいました。しかし、家庭でなら気軽に調理して楽しむことができます。ただし、タタキと言っても肉の内側は生肉そのもの。あくまでも自己責任でお願いします。
なお、安堂畜産製の商品「牛たたき」(肉のこーべや玖珂店などで買えます)はご安心ください。適切に温度管理した精肉を材料に、まず湯煎をした後、その表面をもったいないけど削ぎ落し、再び表面に熱を加える。そんな二段階の熱処理を経た後、菌数検査もパスして初めて出荷されるのです。
記者はタタキが大好きなので、月に1度はモモ肉のブロックをスーパーで購入して、タタキを作ってきました。自己流ですが、味には自信があります。そして、一度も腹痛に見舞われたこともありません。偶然かも知れませんが…。
さて、「トウガラシ」で作るタタキは初体験。わくわくしながら料理を始めました。
【記者のレシピ】
①トウガラシに塩と胡椒をまぶします。いつも適当ですが、外側だけの味付けなので、わりと多めに味を付けます。そして、摺ったニンニクをたっぷり擦り付けます。
なお、後で紹介するローストビーフのように、味が染みるようにフォークなどで肉に穴を開けてはいけません。わざわざ菌を入れてしまうようなもの。肉の表面は空気に触れて菌が増えていますが、中は菌が少ない状態。それがタタキを作る前提です。
②ラップに包み、室温だと心配なので冷蔵庫に入れて30分以上、味をなじませます。
③フライパンにオリーブ油を入れて、やや強火で表面を焼きます。このとき、ニンニクとコショウが焼ける匂いが立ち込めて、食欲も増します。
④お肉の表面全体をまんべんなく焼いて焦げ目を付けます。このとき切り口も忘れずしっかり焼き色を付けましょう。その後、粗熱をとって薄くスライスして盛り付けます。
⑤薬味には、ワサビ、ニンニク、ショウガを用意します。
さて、醤油に少しだけ付けていただいてみました。すると、いつも食べ慣れているモモ肉とは少し食感が違いました。スジが多めにあるからでしょう。歯ごたえがあります。そして、やはり濃厚な赤身の味わいが広がりました。はっきり言って、モモ肉よりも美味しいです。旨味が多い気がするのです。今すぐにでも生ビールが欲しい! そんな衝動に駆られたのでした。
ローストビーフに挑戦!
ローストビーフを作るのは初めてでした。だからネットでレシピを漁りまくり、最後に辿り着いたのがこの「失敗しらず!絶品ローストビーフ」でした。
さて、「これで失敗したらどうしよう」という変なプレッシャーのなか、料理は始まりました。
【失敗知らず! 絶品ローストビーフ】…参考/キッコーマン「ホームクッキング」
①肉のかたまりに、フォークで数カ所穴を開ける。なお、肉は冷蔵庫から一定時間、室温に置いておいた方が良いようです。熱が中まで通りやすくなります。
②耐熱性の調理袋に肉と、潰したニンニク、塩、こしょう、オリーブオイルを入れて、良くもむ。
③袋の空気を抜いて、口を閉じて室温で15分くらいおいて、なじませる。
④鍋に湯を沸かして、③を袋ごと入れ、中火で2分間ゆでます。鍋にフタをして火を止めたら、そのまま20分間、放置します。
⑤袋から肉とニンニクを取り出して、フライパンにオリーブ油を引いて、中火で焼きます。全体に焼き色が付くように、転がしながら。なお、袋に残った肉汁は捨てずに、ソース作りに利用するのも手です。
⑥フライパンから出して粗熱がとれたら、ラップに包んで冷やします。そして、薄めに切って器に盛りつけます。
ローストビーフというと、オーブンを使って、時間がかかる印象がありますが、この方法なら、本当に簡単に完成しました。しかも最後に焼き色を付けるから香ばしさもありました。
ドキドキしながら切ってみると…、まさしくローストビーフのピンク色です。
さて、お味の方は…。
これが本当に絶品でした。しっかりお肉の中まで味が染み込んでいます。しかも、「トウガラシ」持ち前の濃厚な赤身の味わいと相まって、ソースを付けなくてもいいくらいの美味しさでした。
スジ肉も捨てず、スジコンに!
最後に、「牛肉は捨てるところがない。スジだって煮込みにすれば美味しいよ」との安堂会長の言いつけに従がって、煮込みを作りました。
スタッフたちのリクエストは、おつまみの王道・牛スジ・コンニャク煮込み。略してスジコンです。
トウガラシをさばいたときに出たスジ肉を沸騰した湯に入れて、アクをとる処理を3回繰り返して、綺麗なスジ肉を作り、コンニャクとともに甘辛く煮ること1時間。完成したスジコンを味わいました。
トウガラシのスジだからと言って、特別な味わいがするわけではありませんが、ただただご飯が進む料理になりました。夜には、酒の友になったことは言うまでもありません。
気付けば3品。希少部位のトウガラシを余すところなく料理し、味わい尽くしました。
結論としては、ローストビーフが最高です。肉そのものの濃厚な味わいに、強めの味付けでソース要らずの美味しさでした。勿論、生肉を味わうタタキも素晴らしいのですが、こちらはやはり生ということで、不安を感じる方もいるでしょう。そんな方は、「肉のこーべや」の牛タタキをお薦めします。
そういえば、冷蔵庫にはもう1本のトウガラシが…。これは全部、ローストビーフにして楽しもうと思います。
では、未知なる部位と料理を求めて、牛肉珍味の旅はこれからも続きます。