安堂グループの歴史物語[アナザーストーリー 11]

安堂グループの歴史物語 タイトル画像

 高森牛の歴史は明治初期に遡ります。その長い歴史のなか、山口県東部随一の牛肉生産を誇る安堂の名が登場するのは、意外にも戦後間もなく、昭和22年のことでした。
これは、現在の安堂グループに至る道のりを辿った歴史物語。そこには、激動の時代を生きた5つの世代、それぞれの苦難と歓喜の秘話がありました。

アナザーストーリー 11

「大きな牧場と小さな力持ち」―― 進化し続ける牧場

意外な主役

 車線のない登り道を右に左に曲がり、車を走らせると、木々の間から白くて細長い建物が見えてきます。安堂グループの牧場・高森肉牛ファームの牛舎です。さらに坂を駆け上がると、急に視界が広がり、牛舎の棟々が現れます。
 山を削った高台の牧場は広さ約7万㎡。実にプロ野球のマツダスタジアムが2つ入る広さです。ここに大小・新旧様々な牛舎が17棟、約1,000頭の肉牛が肥育されています。肉牛の牧場では山口県随一の規模を誇ります。

安堂グループの歴史物語第11話 牧場(GoogleMap)

 さて、今日の取材の目的はというと、幅80cmのショベルが特徴の小さな重機です。安堂光明(現・会長)によると、「大活躍している」とのこと。早速、その活躍を見たいところですが、立ち並ぶ牛舎の間を抜けるなか、会長の説明はヒートアップ。各牛舎の役割や特徴、工夫について語り始めました。意外なことに、その主役は牛の排泄物だったのです。

糞尿との闘い

 消費者としては、牧場の仕事といえばまず、餌やりでしょう。牛が餌をモグモグと食べる姿ばかりが目に浮かびます。しかし、その背後に回ると、それと同じくらいの糞尿が排泄されていることを忘れてはいけません。ある資料によると、肉牛は1頭あたり一日に約23~25kgの糞尿を排泄するそうです。つまり、約1,000頭が肥育されているこの牧場では、20トンくらいの糞尿が、毎日生み出されているという計算になります。高森肉牛ファームは、このおびただしい量の糞尿と、長年、闘ってきたのです。
 昭和40年(1965)から、光明の父・親之(2代目)によってこの牧場は拓かれました。10年を費やして9棟の牛舎が整備され、400頭の肥育体制を築いています。この頃、糞尿処理は大変な重労働でした。現在のように重機は利用されず、ほとんどが手作業で排泄物を牛舎から運搬する毎日。たまたま、土地の造成が正確ではなく、まるで段々畑のような落差のある土地に牛舎が並んだことにより、糞尿を下に降ろす作業は少し楽になりましたが、重労働に変わりはありません。貯まった糞尿は、燃やすことにより処分をしていました。
 400頭の肥育体制が整った昭和50年には、獣医学部を卒業した光明が安堂商店(現・安堂グループ)に入社しています。

安堂グループの歴史物語第11話 昭和50年頃の牧場の様子
▲昭和50年頃の牧場

 さらに25年の時を経た平成12年(2000)、光明によって牧場は拡張されました。1,000頭の肥育規模を持ち、最新の技術と考え方による現在の牧場が誕生したのです。
 自動給餌機等の設備の他、重労働だった糞尿処理を省力化するため、牛が自分で糞を蹴りだせるように牛舎は設計されました。また、糞尿を重機で運搬できるように、幅の広い排泄物のバックヤードも設けました。さらに、前年に施行された「家畜排せつ物法」に対応し、自動的に堆肥化する設備も整えたのでした。その「連続発酵乾燥堆肥化処理装置」なるものは、全長160m。最も長い牛舎の約1.5倍という異例の規模。これによって、大量の排泄物は約1ヵ月かけて、匂いのしない完熟肥料へと生まれ変わります。最近では、農家からの需要に追い付かないほどの人気なのだとか。かつて燃やして処理していた糞尿は今や、高森肉牛ファーム収入源の一つに成長しました。

安堂グループの歴史物語第11話 連続発酵乾燥堆肥化処理装置
▲連続発酵乾燥堆肥化処理装置

可愛い重機

 一通り、「牛の糞」についての話が終わるころ、光明はある古い牛舎のなかに入ると、指さしました。その先では、小さな重機が機敏に動き、糞尿をせっせと運んでいました。


▲動画…排泄物運搬に活躍するミニクローダー

 それは重機と呼ぶのがはばかれるような可愛らしいもの。名前をミニクローダー(ウインブルヤマグチ製)といい、主に除雪作業に活躍しているとか。糞尿でも錆びないように、バケットはメッキされたものを特別に装着しています。バケットの幅は80cm。たった1.2mしかない狭いバックヤードでも動くことができます。
 「これを見つけてね。やっと親父が作ったこの牛舎でも、仕事が楽になったよ」。
 光明は感慨深そうに、小さな働き者を見つめていました。

絶妙な牛舎の組合せ

 高森肉牛ファームでは、50年前に作られた牛舎と最新設備の牛舎を合わせて計17棟が稼働しています。肥育の前期に4~5頭ずつを1マスに入れる牛舎もあれば、その後の成長に沿って、2~3頭ずつを収める牛舎もあります。そして、出荷の最終段階になれば、1頭が1マスに収まる牛舎が利用されます。また、途中で調子を崩した牛については、特別なケアを施すために、専用の牛舎に移します。50年前に作られた牛舎の一つは、その大切な役割を今も担っているのです。
 「なぜ、こんなに色んな牛舎があるのかって、不思議に思うかもしれませんね。でも、それぞれに役割があってね。体も心も健康な牛に育ってもらうには、どれも欠かせないんですよ」と、光明。
 旧式で労力を必要とする牛舎もまた、大切な役割を担っています。だから、そこは創意工夫で乗り越える。こうして、この牧場は営まれてきました。
 2022年の現在も、牧場のあちらこちらで工事が進行中とのこと。重機で糞尿を救いやすい床の構造に改造したり、入口を広くして移動しやすくしたり、豪雨による山水の水路を用意したり…。牧場は今も進化の途中でした。


← アナザーストーリー10 「木を食べる牛」

→ アナザーストーリー12 「商品と地球を守る包装技術」